深層学習 Orbital Free-DFT を開発
密度汎関数理論(DFT)における標準的な解法として、長年にわたりKohn Sham-DFT(KS-DFT)が使われてきました。KS-DFTは高精度に多くの物理現象を再現することに成功したものの、計算コストが高く大規模系のシミュレーションが困難であるという問題を含んでいます。軌道(波動関数)を使った表現がKS-DFTの計算コストの原因であり、軌道を使わずに電子密度を直接最適化するOrbital Free-DFT(OF-DFT)はより低い計算コストで極めて高速なシミュレーションを実現します。しかしながら、OF-DFTにおいては実用に耐え得る精度の運動エネルギー汎関数が未知であるという問題があります。アドバンスソフト株式会社では、独自に開発した場の深層化アルゴリズムを適用することで、この問題を解決しました。深層学習された運動エネルギー汎関数AdvanceSoft25を搭載した新製品Advance/OF-DFTを用いたサービスを提供いたします。
Kohn Sham-DFT vs Orbital Free-DFT
KS-DFT | OF-DFT | 力場法 | |
---|---|---|---|
電子密度 | 有り | 有り | 無し |
軌道(波動関数) | 有り | 無し | 無し |
運動エネルギー | 軌道で 明示的に計算 | 深層学習汎関数 AdvanceSoft25 | – |
計算精度 | 高い | 汎関数に依存 | 力場に依存 |
計算コスト | 𝑂(𝑁3) | 𝑂(𝑁) | 𝑂(𝑁) |
汎用性 | 全元素に 適用可能 | 擬ポテンシャルの 拡充が課題 (次バージョンで解決予定) | GNN力場などで汎用性を担保 |
GNN力場と同水準の計算コストで、電子状態も解析可
- OF-DFTの計算コストは原子数𝑁に比例する程度(𝑂(𝑁))であるため、Graph Neural Network(GNN)などを使った機械学習力場と同水準の計算速度でシミュレーションが実行できる。
- 電子密度の情報を保持しているため、SCF計算収束後にBader電荷なども解析できる。
- 電子やホールのドープも可能であり、Effective Screening Medium(ESM)との併用で電極電位を制御した大規模系のMDシミュレーションも実現し得る(現行バージョンではESMは未実装)。外部電場の印加も容易である。
- 交換相関汎関数の種類はSCF計算実行時に選択可能であるため、系に応じてvdW-DFやrVV10などの分散力に対応した非局所相関も利用できる。DFT-D3などの経験関数は不要である。
- 波動関数の情報は含まないので、バンド構造や状態密度の計算には別途KS-DFTによる計算が必須である。